読書感想文をコピペして提出したらコンクールに出したいと言われた話 FINALE
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あなたの愛情にふれて
数瞬、空野はあたしを高揚感に包んでから、本当のところはどうなのかとガサ入れしてくるのだろうと思った
しかし、空野に限ってそれ無い
たまにウザイ時はあるが、いっつもニコニコして、生徒たちに面白い話をしてくれているし、気分や感情なんかで接することは無いし、矛盾がない
容姿は典型的なおばさん気質で八百屋、魚屋には茶色のかごバッグを必ずもっていくのだろうし、髪型もサザエさんにそっくりだった
唯一違う所はメガネをかけているということ
そんな愛嬌がある空野は、生徒から「あっ、サザエさんだ」と、からかわれては「こらっ」と笑っていられるほど心が広く人気者だし、保護者からの信頼も厚く、参観日終了にはサインをくれといわんばかりに取り囲まれて、みんなから愛されている光景を目にしたことがある
逆に、うちの担任なんて、いつも疑ってくる姿勢から生徒から嫌われ、いつも孤立しているし、誰も話しかけようとしない
さすが、国語の先生、裏表がない
色々本も読んでいるだろうし、それが人格を作り上げているだなァーと思う
さっきの会話だってあたしがモノを持っているからそう聞こえただけというのもあるし、多分空野は分かっていたけど、あえて身体検査などせず、愛情警告で終わらせたのだろう
あれ読むの大変だったんじゃない?
途中わかんなくなっちゃって、飛ばし飛ばし読んだんですよ~
あたしは本当に空野がほめていると分かり、調子にのった
普段から人をからかうのが好きで、ちょっかいを出したり、平気で会話に嘘を織り交ぜているからこんな嘘なんて得意技
でもよくあの本しってたね~?
ウチの親父に面白いから読めってすすめられて
お父さんも本すきなんだ~
いいお父さんだねっ!
自分と趣味が合う人の話を訊けて、ますます嬉しそうな顔をする空野
まさか矢沢さんにあんな文才があるなんて、先生見直しちゃった
もぉ~書いてる最中わけわかんなくなって、適当に書きましたよ
それでもあれだけ書けるってすごいよ!
正直人生でここまで褒められたことなんてなかった
写した事がばれていないという安心感もあったし、日頃のモヤモヤ感が晴れたような気がして、心がクリアになり一気に身軽になった
まっ! あたしにかかれば楽勝ですけどねっ!
それくらい勉強してくれればいいんだけどね~
どんだけ~~~
と、やりたかったがこの時代には存在していなかった。失礼
その後、たまり場に向かったがあたしは行動に移さなかった
「あれ、なんかあったの?」と周りに聞かれたが「空野、感づいてるっぽいよ~」と報告すると「大丈夫だって~」と勧められたが、あたしはそんな気分になれなかった
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罪と罰
国語のチャイムが教室に鳴り響き、号令を終えると「矢沢さんちょっとい~?」と呼ばれ、はてなマークのまま廊下に向かうと空野はうれしそうに事を告げた
先生ね、矢沢さんの読書感想文、市のコンクールに出そうと思うの!
えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
空野それはまずいって! 市までいったらばれるかもしれないじゃん!
あたしは赤髪の人気バスケットマンの如くディフェンスをかました
もっ、もっと周りに書けてる人いますって!
ほんっと適当に書いたんで、はっきりいって自信ないですよ、それにあたし普段本とか全然読まないし、文章だって苦手だし
あたしなりに大分必死にフゥウフゥウしたつもりだったが、それ以上に空野の意思はそこにあった
そぉ~かな~。先生みんなの一通り読んだけど、やっぱり一番すきだなぁ~
いや~でも・・・やめたほういんじゃないですか~
確かに直さないといけないところもあるけど、先生っ協力するよ!
ん~
矢沢さん! 自信もって! あなたの文才はたしかよっ! 自分を信じなさい!
空野いや、サザエさんの愉快さに負けてしまった・・・・・
いやいやいやふざけてる場合じゃないっつーの!
どーするよ、Doするよ!
ん~何にも策が思い浮かばない
かといってここで周りの友達に相談してしまうと、事実が大きく広まる可能性は大だし、誰かがふっと漏らした言葉を先生が聞いてしまい、空野にばれてしまうことだってありえる
ましてや、橋本にも嘘をついているわけで、あたしは基本的に嘘は嘘で押し通す
その嘘もつき続ければ周りにしてみたら事実であって
だから、あたしはそのままにすることしか出来なかった・・・
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真実の解
数日後、国語の授業が終わり、またしてもお呼びがかかった
手直し作業が始まったらどんな心境になるのか分からなかったけれど、ここ何日かはとてもつらかった
友達と話している時や部活に打ち込んでいるときは読書感想文の事を忘れることができたが、ふと我に返ると事実が即座に降り注いでくる
もし写したのがばれたら、あんなに褒めてくれた空野はがっかりするだろうし、先生達の信用も当然低くなるし、周りの友達からは白い目で見られるだろうし、噂というか真実はどんどん人の耳に入り拡大し、さらにあたしを苦しめるだろう・・・
こんなこと何回考えただろう
考えれば考えるほど無限に心配事は広がっていき、何をするにも無気力になっていった
重い足取りで廊下に向かうも「はぁ~っ。今度はどんな話されるんだろう~」と空野の声も聴くのも嫌になっていた
廊下にでると、嬉しそうなサザエさんが立っていてたが
矢沢さん、本当にごめん!
実はね、読書感想文、コンクールに出せなくなっちゃった・・・
えぇ! そうなんですか!
もともとコンクールになんて出したくなかったのに、この事実にはビックリした
嬉しいとかそんな感情じゃなくてまず経緯が気になったのだ
さらに、寂しそうな口調で空野は話を続けた
昨日ね、国語の先生たちで集まって話し合いがあったんだけど、矢沢さん以外の人が選ばれちゃって・・・
先生はね、矢沢さんのがいいって推薦したんだけど・・・
なんか、期待させちゃってごめんね・・・
先生も矢沢さんと一緒に市のコンクールだしたかったなぁ~
先生は、ほんとうに申し訳なさそうに暗い表情であやまり悲しんでいた
その様子をみたあたしは空野以外の国語教師に腹が立ち始めていた
全国レベルの読書感想文を良いと見抜けないなんてアホじゃないの?
所詮あんたら凡人教師には、いいも悪いも区別がつかないだろうよ
あたしよりいい感想文なんて書けるやついないだろ~が
空野の顔をみていると、あたしまで悲しくなってきた
あたし以外の感想文を推薦したやつらにどこがどうダメで落選させたのか訊いたのち「あんたらな~ホントによくそんなんで国語教師つとめてるよな~。この作文はな、全国まで行った読書感想文なんだよ」とケンカを売るんじゃない、今までの人生を全て否定してやりたかった
結果としてあたしは救われたんだけれど、なんだろね、嬉しいって気持ちより、本当に文章にも言葉にもできないそんな気持ちだった
それから決定事項が変わることはなく、他の子の作品が市のコンクールに出典されたがそこで賞をもらうことはなかった
そして、この話にはまだ続きがあるのだ